いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「親父は姉ちゃんのために少しは役に立ったから良かったなんて笑ってたけど。相談した知人の学者たちには、未知の能力を封じることに猛反対されたんだ」

「まあ精霊を扱う僕ら霊媒師から見ても、あの能力は相当興味深いけどね…晴海ちゃんの病状を考えるとそうも言っていられないな」

表情を曇らせた京に、風弓も頷いた。

「うん…そんな能力なんかよりも姉ちゃんの命のほうがずっと大事だろって、そう母ちゃんから一喝されて、親父も見切りをつけたんです」

「…仄さんが」

「母ちゃんは、姉ちゃんを丈夫な身体に産んでやれなかったって…時々隠れて泣いてた。姉ちゃんが元気になるならそれが一番だって言ってた」

――あの気丈で快活な仄が泣いていただなんて。

瞬間、炎夏を脱出するときに仄が明るく微笑んでいたことを思い出す。

本当は、笑えるような心境ではなかった筈なのに――

「そのとき協力してくれたのが、陸と京さんの親父さんだよ。何の伝(つて)もないうちの親父からの相談を、直接親身になって聞いてくれた」

そういえば父は昔から、領主の仕事の合間に一個人の霊媒師として持ち掛けられる相談を可能な限り引き受けていた。

そのせいでいつも父は多忙だっだが、必ず家族と過ごす時間も確保してくれていたため余り寂しくはなかった。

「それで、俺たちが六つになった頃に親父は姉ちゃんを春雷へ連れて行ったんだ」

「十年前か…当時の話は僕も全然知らなかったな」

「…父さんは充さんからの要望もあって、事情を知る人間を最小限まで抑えてたんだよ。俺は当日、偶然晴と逢ったから事情を知っただけ」

確かあの日、兄は父に使いを頼まれて不在だった筈だ。

自分はというと――教育係の授業を抜け出した折に、庭園へと迷い込んできた幼い晴海を見付けたのだ。

炎夏で出逢ったときは、お互いにその記憶を失った状態だったため初対面だと思っていた。
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