いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「あんたはまだわかんないのかっ…!! 父さんと母さんの間には、あんたや架々見なんかが入り込む余地はないんだよ!!」

不意に陸が声を荒げた。

激しい怒りを含んだ緋色の眼差しが、美月に向けられる。

「あんたは、俺たちよりもずっと父さんと一緒にいるくせに父さんのことを何も解っちゃいない…!父さんは自分より、俺たち家族を傷付けられることほうが一番つらいんだ!!あんたがやってることは父さんを何より苦しめることなんだよ!何でそれが解らないんだ!!」

「…お前らのせいで僕たちと四年も引き離されてた陸に解るのに、何でずっと一緒だったお前には解らないのか…お前は、父さんを好きな自分ばかり見ていて、ちっとも父さんのことを見てなんかいないからだよ」

二人の言葉を振り払うように、美月は激しく首を振った。

「っ…煩い、煩いっ…!!あんたたちに、私の何が解るっていうのよ!あんたたち兄弟さえ生まれなければ、私…私はっ」

「…もう止せ、美月」

「っ…」

周が静かに告げると、美月はぴたりと動きを止めた。

「…美月。俺は都を失ったとき、単なる気紛れで愛梨を選んだ訳ではないよ」

「……」

美月は俯いたまま、動かなかった。

「愛梨がいなかったら…俺は折角生まれてきたばかりの京を愛することも、領主としての責務を果たすことも、何もかも全て放り出したままでいたかも知れない」

ふと自分の名前の挙がった京は、 びくりと身動ぎした。

「愛梨は捻くれた俺の心を正してくれた。俺の息子を、損得抜きで真っ直ぐに愛してくれた。だから京も素直に愛梨に懐いたんだろうな」

「父さん」

「京、俺は都を愛していたよ。だからお前が生まれたんだ。だから彼女を失ったとき俺は、愛する人間がいなくなるのが怖くなった」
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