君の一部を下さい。
君の一部を下さい。
夜も更けた。
彼はいつも22時14分に到着する電車に乗って疲れた顔でご帰宅する。
駅の構内。行き交う人の波を掻き分けて彼を探すあたしの日課。
縒れたスーツに、カバンを手に持って、よたよたと歩くその姿に、快感すら覚えてしまう。
一ヶ月前、人とぶつかった弾みに落ちた眼鏡が曲がってしまっていた。
その眼鏡は、まだ曲がったまま。
きっと、忙しくて直しに行けないのだろう。
家まで歩く、その後ろを着いていく。
彼はたまに振り返ってあたしを見る。
小さく手を振るけれど、照れ屋な彼はそのまま早足で帰路につく。
いつも、家には入れてくれない。
きっと汚いとか散らかってるとか、そんの理由なんだろう。
あたしは全く気にしないのに。