もう一度、あの夏にもどれるなら。
・・・莉子side・・・

その朝、私はほぼ強制的にと言っていいだろう。目覚めを余儀なくされた。

「莉子!?莉子!?起きてる?早く出て!大変なのッ!」

うるさいなぁ…声からして綾那だろうか、時計を確認すると午前7時前。そんなに急がなくてもいいのに…

のそのそとベッドから起き、軽く髪を梳かして服をパジャマから着替える。その間にも急かすようにドアがドンドン叩かれる。

ハイハイ、そんなにしなくてもちゃんと起きてるよ、どしたの?

ドアを開けると真っ青な顔をした綾那と花音が立っていた。

「り、こちゃ…どうしよ、ハル君と政宗君が……ッ」

花音はほとんど血の気を失った顔で震えていた。いまにも倒れてしまいそうだ。

ハルと…正宗?どうしたの?

「詳しい説明は後だ、とにかくこっち来て!」

綾那に痛いぐらい腕を引っ張られる。痛いって、そんなに…引っ張らないで、そう言おうと思った。

でも、綾那の横顔は今まで見た事ない怖くて言えなかった。

「取り合えず正宗の部屋が近いからそっち行くわよ。……なんで、こんな事に。」

唇を噛み過ぎて少し血が出てしまっている。いっつも噛んだりしないのに……よっぽどの事があったんだろう。

「ぁ……り、こ……」

茜だ。茜も震えている。顔は青白いし、政宗の部屋の中を覗こうとしない。

なに、どうしたの?何も説明されてないんだけど…なにかあった?

部屋を覗いた。……覗いて、しまった。

…耳障りな声。うるさいな、誰が叫んでるの?

「莉子…莉子、落ち付け。落ち付くんだ。…もうお前は見ない方がいい。先に食堂に行っておけ。」

日向の声で我に帰る。叫んでたのは私だったんだ。そっか、コレを見ちゃったから綾那も花音も茜もあんなに血の気が失せてたんだ。

日向に返事をしたいけど声が出ない。代わりに微かに頷いてよろけながら階下へ向かう。綾那や花音も一緒だ。

互いに倒れそうになりながら互いを支えて廊下を歩く。

外からは朝の空気と光がいっぱいに差し込んでいてとても清々しい。こんな日に洗濯物をしたらきっとよく乾くんだろう。

どうでもいい事を考えてしまうのは、きっと政宗の事を考えるのが怖いからだ。

…そういえば綾那は「政宗とハルが」って言ってた気がする。

…考えるのを止めよう。まずは朝食を作って、お茶を入れて…皆の顔を見たい。落ち付きたい。

そう思いながら私達はフラフラと食堂を目指した。
< 10 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop