もう一度、あの夏にもどれるなら。
・・・莉子side・・・

自室に戻って崩れ落ちるようにベッドに座りこむ。

一人になって静かに考えられるようになるとあの二人がもういないんだ、という事が重くのしかかった。

もう一緒に舞台に立つ事もない、もう一緒にどこかへ行く事もできない。

涙があふれて止まらなかった。誰がやったんだろう、グルグルと頭の中を回る。

私の神経は私が思っていた以上に疲れていたのだろう、いつのまにか寝てしまっていた。

…気付いたらもう夕暮れ。とても綺麗な夕焼けだった。

鏡で顔を見てみると酷い顔をしている。下へ行く前に一回顔洗わないと……

部屋に付いている小さな洗面所で顔を洗う。冷たさが心地よかった。

階段を下りて下へ向かう。夕方って事はきっとご飯を準備してるはずだ。

台所へ行く、早苗と瑠璃が準備を始めていた。

「あ、来たの。助かるわ、花音も茜もダウンしちゃって…」

早苗が困ったように笑いながら言った。

…しょがないよ、あんな物見ちゃったんだもん。

変な笑顔になってたと思う。早苗は短く「…そうね。」とだけ言って料理を再開した。

瑠璃はひたすら手を動かしている。そうでもしないと辛いんだろうか。

昨日より時間がかかってしまったのは3人しかいないからで。綾那は途中から降りて来てくれたけど憔悴しきっていたから休んでもらった。

ご飯が出来たので男子を呼びに行って来ると瑠璃が台所からでた。その内にお皿を運んでしまおう。

今日の夕飯はサンドイッチとスープ、そしてサラダだ。

軽過ぎただろうか? 作る側もこれ以上のものは作れなかった、我慢してもらうしかないだろう。

男子が下りてきてテーブルにつく、調理器具の後片づけをしていた早苗も戻ってきた。

全員が席に着き、誰からともなく「…いただきます。」と言って食べ始める。

昨日と違って会話もなく、互いが手を動かす音しかしない静かな夕飯だった。

綾那や花音は少し食べただけで残してしまった。やはり食べれないのだろうか。

男子は…ほとんど食べている。その食欲が羨ましい。

食べ終わると一人、また一人と席を立つ。

「莉子も今日はもう休んで。夕飯の手伝いもして貰ったんだし…気づいてないかもしれないけど目、真っ赤よ。」

早苗に言われるまで気づかなかった。きちんと顔洗ったのに…

ゴメンね、それじゃあ先に…お休みなさい。ことわってから自室へ戻るために後ろを向く

  「ええ…「お休みなさい」」

早苗がそう言った時、ハルが重なって見えた。胸がズキ、と小さく痛む。

胸の痛みを誤魔化すように、階段の方へ足を進めた。

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