もう一度、あの夏にもどれるなら。
・・・綾那side・・・

…アレ、あそこにいるの…早苗じゃん。何してんだろ。

あたしが見かけた早苗は誰かを待ってるようだった。

声をかけてもいいんだけど…なんかピリピリしてるな、やめとこ。

数分後に待ち人がきたみたい。何するんだろ…告白だったら面白いな。

…何を話していたかはあたしの部屋からは分からない。だけど…あまり良い雰囲気でないのは分かった。

そこから暫く持ってきた雑誌を呼んでいると…空気がピリピリどころじゃない事に気付いた。

なんか…おかしい。ここにいるあたしにまで緊張してるのが伝わる。

思い切って声をかけよう、そう思って息をすった時

胸から血を出して気に寄り掛ってる早苗を見つけた。

咄嗟に出かかった悲鳴を抑える。…が、窓際においていたカップを落としてしまった。

カシャンッ!と乾いた音。早苗の待ち人がコッチを向くのが分かった。

慌てて窓、カーテンを閉め、電気を消してベッドにもぐりこむ。

気付かれませんように、気付かれませんように、気付かれませんように…

…ドアの方から小さく、コンコン、とノックの音がした。

一気に鳥肌が立つ。やだ、アイツ…来たの…?

控え目に、執拗にノックは鳴り続ける。

…そう言えば、あたし、鍵かけたっけ?

…確かめたい、けど…今ベッドを出る勇気はない。

震えながらベッドの中でアイツが去るのを待つ。

その時間は5分にも、1時間にも感じられた。

ふいにノックの音が止む。…諦めて帰ったのかな?

ほっとして顔を少しだけ出す。

……最後に私が覚えてるのは、自分に迫りくる鈍色。

そう、それだけであたしの全ては終わってしまった。


「…あーあー…こんな遅くに起きてるからだよ、さっさと寝たらよかったのに…」

影は一人ぼやいて、頭を軽く掻いた。

「…ま、いいけどさ。どうせいつかサヨナラするつもりだったし。」

そう言うと影は鼻歌交じりに…小さなメッセージカードを書いた。

「7人の彼女の事が好きな少年少女がいました…1人が薪を割っていて、6人になりましたー…っと。」

書きあげると少女だったモノの側に置き、部屋を出た。

足を忍ばせ、寝ているものに気遣うように。

踊るような昨日とは対照的に、静かに静かに、影は闇に消えていった。
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