もう一度、あの夏にもどれるなら。
・・・莉子side・・・

そんなこんなで準備が進み、今に至る訳なのだが……

私には一つだけ、不安があった。

私達の旅行計画が始まったあの日。珍しく日向が帰ろう、と言ってきたのだ。

昔はそう珍しくもなかったのだが…中学に入ると色々な事を噂されるようになり、いつしか止めてしまっていた。

断る理由も特にないし…いいよ、帰ろうか。そう言って久々に一緒に帰る事にした。

暫くは一緒に帰るの久々だねーとか、旅行楽しみだねー…なんてとりとめのない話をしていたが…日向が少しだけ真剣な顔をして私に尋ねてきた。

「なぁ、莉子? 俺とおまえは友達だよな?…俺が一番だよな?」

真剣な顔して聞いてくる日向が少しおかしくて、私はつい笑ってしまった。

何言ってるの、皆大事だよ?一番なんて決められない。

そう笑いながらいうと日向は今度は少しだけ傷ついた顔をして

「…そうか。そうだよな。莉子、優しいもんな。」

まるで自分に言い聞かせるみたいに呟いた。どういう意味なのか気になって聞こうと思ったんだ。だけど…

「ゴメンな。変な事聞いて。そうだ、今日どっか寄り道して帰ろうぜ?」

そう言っていつもみたいに笑った。くしゃっとした子供っぽい笑い方。

あぁ、なんだ。いつもの日向じゃないか。そう思って安心した私はうん!と一言だけ返事をして私より少し長い日向の影を追い掛けて歩いた。

その後は行きたいねって話してたお店に少しだけよって、帰った。なんてことないただの帰り道。

……ただ、日向が呟いてたことがどうも気になる。言っていた事も気になるけど…そうじゃないんだ。

日向のあんな顔初めて見た。今までずっとと言っていいくらい一緒にいるけど…あんな顔されたのは初めてだった。

その事が間違えて食べてしまった魚の小骨みたいに喉の奥…いや、胸の奥でずっと引っかかっている。

…まぁ、気にしていても仕方ないか。もうすぐ早苗の家のおじさんが車で迎えに来てくれるだろう。それまで少し落ち付くために何か読もうかな…?

他の人から見ると私はあまり読書を楽しむようなタイプには見えないらしい。それでも好きな物は好きなのだから…しょうがないだろう。

昔お母さんから貰った本をとりだす。私の何より大切な本。

タイトルは「マザーグース・詩集」 自分でもあまり柄では無いなと苦笑してしまう。

読み過ぎて擦り切れてしまった本の表紙。それを開き目当てのページを探す。

     『10人のインディアン』

一人ずつインディアンの少年が去っていくこの詩。 私はこの詩が大好きだった。

演劇部の皆はそれを知ってる。たまに口ずさんでるからだろうけど…

眺めながら待っていると時間が穏やかに過ぎていくように感じた。 暫くすると下の方から私を呼ぶお母さんの声がする。早苗達きたのかな?

今いくーっ!と声を張り上げて荷物を掴む。

今日から7日間。楽しい思い出がいっぱいできるんだろうなぁ…そう思って私はこれからの出来事に胸を弾ませていた。
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