もう一度、あの夏にもどれるなら。
・・・ハルside・・・

莉子ちゃん行った…な。

上手く出来たかな?声震えてたよなぁ……

思い返せば思い返すほど反省する所はいっぱい出てくる。

気をつけないと、今回は練習だったけど…次は本番だ。

劇で舞台に立つ時もこんなに緊張しない、今でも少し手が震えてる。

落ち付くために数回深呼吸をする。いーち、にーい、さーん……

雨音と俺の深呼吸の音だけのはず。それなのにカタカタ、と足音が聞こえる。

誰だろ?入口の方に目を向けるとさっきまで居なかったはずのあの子が立っていた。

どしたの?喉でも乾いた?問いかけるとその子は短く「うん。」とだけ答える。

そっか、ちょっと待ってて。紅茶でも入れるからさ。

するとその子はやっぱり短く「いいの?」と聞く。うん、俺がしたくてやってるんだし。

サクッといれてあげよう。きっと寒くて口数がいつも以上に減ってるんだ。

ミルクかお砂糖は…あ、いらない?それじゃおまたせー…っと。

カップを渡す。やっぱあの子は「ありがと。」と一言だけ言ってカップを受け取った。

俺の方も少しだけ残っている。飲んでしまおう……

しばらくそうやって話した。だんだん温まったのかな、口数が増えてきた。

…なんか、おかしい。視界がぐらつく。頭痛いし……風邪でも引いたのかな?

そう思ったとたん、胸が一気に苦しくなった。苦しい、息が……出来ない…

たす、けて。お願い、苦しい…必死に手を伸ばす。けど…いとも簡単に振り払われてしまった。

視界はかすんでほとんど見えない。耳も聞こえづらくなってきた…

「………好きな………いました……」

あの子が何か話してる。こんなに近くにいるのにもう聞こえないや。

……ごめんね。結局…思いは伝えられなかったみたい。

最後に……少しでいいから顔が見たいな………もう、見えなくなっちゃうから。

……俺の目はほとんど見えなくなったけど、最後に……フッて、あの子が笑った気がした。

気のせいかな……気のせいかどうかも分からない。

…こうなるんだって分かってたら、もう少し早く気持ちを伝えられたのかな。

…最後に思ったのは、後悔。そしてあの子がこんなことを彼女にしないように…という祈り。

それを最後に意識を手放した。



……彼女の事が好きな10人の少年少女たちがいました。
   1人が喉をつまらせて、9人になりました。………
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