もう一度、あの夏にもどれるなら。
・・・正宗side・・・

…カタン、と音がした。

それだけでも眠りが浅い(らしい)俺は目が覚めてしまう。

…誰か入ったのか?鍵はかけてないし……

大方、ハルか右京辺りが自分の部屋を寝惚けて間違えたのだろう。

時計を見ると午前2時すぎ。丑三つ時って奴。

こんな時間に起こしてんじゃねぇよ……腹立たしくて思わず舌うちをした。

手近にあった水を手に取り、飲む。…気のせいか、部屋が少し暑い気ような…

……まぁ、気のせいだろう。布団を薄いものに変えて中にもぐりこむ。

一度起きてしまったとはいえ、完全に覚醒したわけではない。

…再び睡魔が襲ってくる。心地いい眠気を感じながら意識を手放した。



…正宗の部屋の外。一人の人影がクスクスと嗤っていた。

「彼女の事が好きな少年少女が9人いました。
       1人が寝過して、8人になりました。」

その影は軽い足取りで暗い廊下を歩いて行く。トンットンッと足音が響く。

「これで残るはあと8人。…最後に彼女と一緒になれるのは誰だろう?」

歌うような調子で、踊るような足取りで影は廊下を歩いて行く。心底楽しそうに。心底うれしそうに。

そして影が通り去ると、辺りには静けさが満ちる。夜の空気と静けさ。そして弱まった雨音。

だが…誰も居なくなった廊下にもうしないはずの影のひそかな嗤い声がまだ響いているような、そんな不気味な夜だった。
< 9 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop