銀狼と愛犬
さて…山ではぐれてしまった吉は祠から少し奥に入った岩場にいた。周りからは狼の遠吠えも聞こえ、吉に取っては初めて聞く狼の遠吠えであり張り詰めた空気の中にいたのだ。


『林太郎…オレはどうしたらいいんだ?』吉は迫り来る狼の気配に身を縮めた。


ーザザザッー



あっという間に吉は数頭の狼に囲まれていた。身動きが取れない程の緊張が吉を支配していたのだ。
「ウウゥ…ここはオレ達の縄張りだ!…お前ごとき人間に媚び諂う奴がいる場所ではない」

黒い毛色の狼が吉に脅しかけた。回りの狼達も低い鳴き声で吉に迫って来ていた。


「オレは人間が好きだ!…媚び諂うっている訳ではない…たまたまオレの主人が人間でオレが守るべき者は林太郎だ」


吉は背中の毛を逆立てて警戒しながらも気丈に振る舞った。


「戯れ言をほざいていろ!…」

黒毛がジリジリと吉に迫って来た牙を剥き出しにして襲撃の態勢だ。







緊張がその場の空気を冷たく冷やし、吉は闘いの覚悟を決めると凛としたオーラを放った。


その時だ!…


月を背にしていた吉の背後に銀色に光る塊と共に響く冷静な声。


「黒武(こくぶ)辞めなさい!…無用な闘いは許しません」



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