戦と死の神の忘れ形見


「ああ、起きていたのかい?」

 そう声をかけると、彼女はこちらを向いた。
 だが、表情は暗い。

 だが次の瞬間、はっとしたように掛布で自分の身体をすっぽりと包んだ。

「すまなかったね。それしかなかったんだ。本当だよ」

 言って、女物の服をベッドの端に置く。

 サディの部屋は無論、女性が泊まるような設計もされていて、女性向けのものもあった。

 だが、女遊びが好きなサディの性格上、扇情的な寝衣は豊富だったがそういうものしかなかったのだ。

「向こうに居るから着替えなさい」

 そう言って隣室に行ってしばらく待ち、寝室の扉をノックした。
「着替えたか?」

 返事はない。

 扉を開けてみると、そのままの姿で所在無げに居た。

 柔らかな笑顔を作って彼女の隣に座ると、その大きな胸に抱き寄せた。
「泣いていい」
 そっと彼女の髪を手で梳きながら、
「泣きなさい」

 やがて嗚咽が漏れ始める。

 サディはその間、何も言わずに彼女を抱き締めていた。

「俺には何を言ってもいい。
 大丈夫。誰にも言わない。

 さあ、何を溜め込んでいるのかね?」

 大丈夫、大丈夫と繰り返すうちに、彼女の口からぽつりぽつりと単語が漏れる。

「役に……立たない……」

「そうか」

「寄生して……る……だけ……

 誰かに……頼らないと……生きて……いけない……

 自分じゃ……なにひとつ……」

 ――誰がこんな言葉を言ったのだ……。

 自己の確定もなっていない十九歳の子供なら当然だ。
 これから学び、育てられるべきではないか。

「大丈夫だ。スクーヴァル。
 俺がお前を守ってやる。

 ここに居ていい。ここに居るんだ。
 分かるかね?」

 サディの長い前髪が、彼女が流した涙に濡れていた。


◇◆◇◆◇


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