戦と死の神の忘れ形見
辺境の小結界のひとつに数えられる、ニーバッツという場所だった。
乾いた荒涼とした土地に数十の家や施設が点在している。
その家の一つの一室で、彼女は溜息をついていた。
翠のふわふわとした長い髪に緑の瞳。年の頃は十九ほどか。
途方に暮れたという表情だ。
「準備はできたか?」
ややあってノックの後、扉が開く。
彼女にあまり似ていない、長身の長い銀髪の男だった。瞳は黒い。
「お兄ちゃん……本当に行くの?」
妹の沈んだ声に、兄はうんざりした顔をする。
「何度も話しただろう」
兄が仕事をしやすいという都合で、兄の親友が宰相をする国の王宮に移り住む。
そのことに妹は乗り気ではないらしい。
「行くぞ。リガスも待っている」
「……うん」
兄は妹を巻き込むと転移した。
◇◆◇◆◇