戦と死の神の忘れ形見


 辺境の小結界のひとつに数えられる、ニーバッツという場所だった。

 乾いた荒涼とした土地に数十の家や施設が点在している。

 その家の一つの一室で、彼女は溜息をついていた。
 翠のふわふわとした長い髪に緑の瞳。年の頃は十九ほどか。
 途方に暮れたという表情だ。

「準備はできたか?」
 ややあってノックの後、扉が開く。
 彼女にあまり似ていない、長身の長い銀髪の男だった。瞳は黒い。

「お兄ちゃん……本当に行くの?」

 妹の沈んだ声に、兄はうんざりした顔をする。
「何度も話しただろう」

 兄が仕事をしやすいという都合で、兄の親友が宰相をする国の王宮に移り住む。
 そのことに妹は乗り気ではないらしい。

「行くぞ。リガスも待っている」
「……うん」

 兄は妹を巻き込むと転移した。


◇◆◇◆◇

< 3 / 26 >

この作品をシェア

pagetop