戦と死の神の忘れ形見
――蒸し暑い。
暑いのはニーバッツも同じだった。どの結界も住み良い温度ではないのだから。
しかし、この蒸しようは何なのか。
流れた汗が乾かない。湿気が服や髪、肌にまとわりつく。
ニーバッツの家は乾いた土壁だったが、この王宮は苔のむした石が隙間なく積まれ息苦しい。
リガスがそんな彼女の疲労に気づいたのは、居住区を分ける長い廊下を歩いている時だった。
「スクーヴァル、疲れましたか?」
「……じめじめするし風がない……」
ああそうか、とリガスは納得した。
彼女はニーバッツから出たことがなかったのだ。
「ごめんなさい、気候が違いましたね。
部屋で休みますか? 中庭で風に当たるのも良いかもしれませんね」
幸い、今日は雨が降っていなかった。
中庭に点在する休憩所(雨の日でも使えるように全て屋根が設けられている)に入り、椅子に座らせる。
柱の向こうに、手入れのされた庭園が広がっていた。
「あ、お花……」
一息ついてスクーヴァルは目の前の木や草に花が無数に咲いていることに気が付いた。
ニーバッツでは花はおろか、こうして緑が集中して芽吹いているのも珍しい。
リガスが適当な花を一輪摘んできた。
露に濡れている。
「ルールを守れば、ここの花を摘んで部屋に持って帰っても良いですよ。
ルールは落ち着いたら教えますからね」
スクーヴァルは花ですっかり機嫌が良くなったらしく、手にした黄色い花を珍しげに弄んでいた。
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