揺れて恋は美しく
店に入った美沙の目に先ず飛び込んで来たのは、柱の陰から店内の様子を伺うママの姿。
「ママ?」
「美沙ちゃん!」
心配そうに美沙の身体を触り気遣うママに美沙は優しく微笑み、それを見たママも表情を笑顔に変えた。
「あっ、あのお客さんは?」
「それがほら、あそこ」
ソファーに座りタオルで鼻を押さえているあの男性客は、自分の前で方膝をつくスーツに赤いネクタイの男と何やら話しているようであった。
「あの人は?」
「あの子がほら、美沙ちゃんを指名したお客さん」
「私を…」
「何話してんだろうねぇ」
スーツの男は男性客の手を取り何かを手渡し、男性客はそれをポケットにしまうと立ち上がり出口に向かう。
男性客に身構えるママと美沙だったが、男性客は思いの外低姿勢で、軽く頭を何度か下げてそそくさに出て行ってしまった。
「あっ、お金! まだ貰ってないわよ」
「あぁ、それなら僕が」
スーツの男が近寄って来る。
美沙は疑うような眼差しでスーツの男を見詰めるが、ママは簡単に身なりを直して笑顔で迎える。
「あら、よろしいの?」
「ええ、構いません。僕の方に付けといて下さい」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うとママは無意味に腰を振りながらカウンターの方へと向かっていった。
終始笑顔の男に、美沙が話し掛ける。
「本当に宜しいんですか?」
「ええ」
「でも…」
「おかしいですか?」
「え? いえ…その…」
「見ず知らずの人間が、何故そこまで? と?」
「ええ…まぁ…」
「…綺麗になった」
「えっ?」
「いや、答えは簡単」
スーツの男はカウンターに向かい、満面の笑みで領収書を差し出すママにお金を渡し会計を済ますと、高そうな革財布を懐にしまいながら美沙の元へと戻って来る。
「あなたが、素敵だからです」
「えっ?! いや、でも、私は…」
「本当は男だとでも?」
「いえ…」
美沙は少し困惑した様子で、だけどその瞳は当初の疑うような眼差しとは明らかに違っていた。
「なになに? 何の話し?」
ママが割り込んで来たことで、スーツの男はそれ以上話さず名刺だけ美沙に渡し店を後にした。
受け取った名刺を見詰める美沙。
「瀬野正樹(せのまさき)さん」
「なに?」
覗き込むママ。
「やだぁー。社長じゃなーい」
ママは名刺を奪って他の従業員に見せに行った。美沙はただただそこに立ち尽くしていた。
「ママ?」
「美沙ちゃん!」
心配そうに美沙の身体を触り気遣うママに美沙は優しく微笑み、それを見たママも表情を笑顔に変えた。
「あっ、あのお客さんは?」
「それがほら、あそこ」
ソファーに座りタオルで鼻を押さえているあの男性客は、自分の前で方膝をつくスーツに赤いネクタイの男と何やら話しているようであった。
「あの人は?」
「あの子がほら、美沙ちゃんを指名したお客さん」
「私を…」
「何話してんだろうねぇ」
スーツの男は男性客の手を取り何かを手渡し、男性客はそれをポケットにしまうと立ち上がり出口に向かう。
男性客に身構えるママと美沙だったが、男性客は思いの外低姿勢で、軽く頭を何度か下げてそそくさに出て行ってしまった。
「あっ、お金! まだ貰ってないわよ」
「あぁ、それなら僕が」
スーツの男が近寄って来る。
美沙は疑うような眼差しでスーツの男を見詰めるが、ママは簡単に身なりを直して笑顔で迎える。
「あら、よろしいの?」
「ええ、構いません。僕の方に付けといて下さい」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言うとママは無意味に腰を振りながらカウンターの方へと向かっていった。
終始笑顔の男に、美沙が話し掛ける。
「本当に宜しいんですか?」
「ええ」
「でも…」
「おかしいですか?」
「え? いえ…その…」
「見ず知らずの人間が、何故そこまで? と?」
「ええ…まぁ…」
「…綺麗になった」
「えっ?」
「いや、答えは簡単」
スーツの男はカウンターに向かい、満面の笑みで領収書を差し出すママにお金を渡し会計を済ますと、高そうな革財布を懐にしまいながら美沙の元へと戻って来る。
「あなたが、素敵だからです」
「えっ?! いや、でも、私は…」
「本当は男だとでも?」
「いえ…」
美沙は少し困惑した様子で、だけどその瞳は当初の疑うような眼差しとは明らかに違っていた。
「なになに? 何の話し?」
ママが割り込んで来たことで、スーツの男はそれ以上話さず名刺だけ美沙に渡し店を後にした。
受け取った名刺を見詰める美沙。
「瀬野正樹(せのまさき)さん」
「なに?」
覗き込むママ。
「やだぁー。社長じゃなーい」
ママは名刺を奪って他の従業員に見せに行った。美沙はただただそこに立ち尽くしていた。