揺れて恋は美しく
珈琲カップをそっと置く瀬野。その隣で落ち着かない様子の真希が、後方を気にしながら聞き耳を立てている。
いつの間にか後ろのテーブル席へと移っていた桐島と美沙。向かい合って座り、お互いをしっかりと見つめながら話し始める。
「この前の返事、するね」
「うん」
「私は、なんて言うか…。多分、好きなんだと思う」
カウンター席の真希が口に手を当てて何かを堪える。
「だけど、冷静に考えると、私は桐島君の事を何も知らなくて、ただ告白された事に対して舞い上がってるだけなんじゃないかって、そう思うようにもなって…」
美沙の視線が表情と共に、だんだんと落ちていく。
「考えれば考えるほど、この気持ちは本当なんだろうか? 彼は本当に私の事が好きなんだろうか? 私なんかで、いいんだろうか? て、頭がぐちゃぐちゃになってきて…」
「うん」
優しい表情でじっと話を聞く桐島。
「ほんと言うと、もっと時間を掛けて答えを出したかった。でも、それじゃあ申し訳なくて」
「何で? 俺の事なら気にしなくていいのに」
「でも、ずっと待ってたんでしょ? あの頃からずっと」
「覚えてたんだ…?」
首を横に振る美沙。
「思い出したの」
予想してなかった展開のようで、瀬野と真希はそれまでの表情をやめ、神妙な面持ちで聞き入っていた。
「初めて会ったあの時。あなたは私の名前を聞いて」
「君は、自分の名前が嫌いだと言った」
「うん。そして、そんな私にあなたは言ったよね?」
「俺は、その名前も君も、どっちも好きだ」
二人は笑顔を溢し、話しを続ける。
「私は訳が分からなくなって、それで、逃げた」
「ハハハ。あの時は俺も驚いた」
「ごめんね。でも最後の言葉は、ちゃんと聞こえてたよ」
「そうか」
「ずっと、好きでいるからー! て」
「ちゃんと届いてたんだ?」
「うん」
「いや、届いたのは今か…」
「ん?」
「なぁ、もう一度、言わせてくれないか?」
「えっ?」
桐島は表情を改めて凛々しく姿勢も正し、それに対し美沙も背筋を伸ばして構える。
「俺はずっと君を好きでいる。今も、これからも、君の側にいられる限り、この愛を捧げ続ける」
言葉は静かに時を止め静寂をもらたらし、その時を大事に心に刻むようにそっと目を閉じて、やがて現実へと戻っていく。
「ありがとう…」
その様子をじっと見ていた瀬野は真希を気遣うように肩を抱き、涙を堪える真希はそれに身を任せた。
桐島は満足そうにして美沙の方を見たが、美沙の表情は曇っており、震える唇を噛みしめていた。
「ごめんね」
「何が? 別に謝らなくても」
美沙は首を横に振り、そして一呼吸して無理矢理に表情を笑顔に変えて言った。
「桐島君は私の事、ずっと好きでいてくれたんだよね?」
「ああ」
「なのに私は…。こんなに愛されてるのに私は」
美沙の笑顔が崩れていくのを、桐島は悲しげに見ていた。そして、悩んだ桐島は一つの答えを出した。
「君のせいじゃないよ」
「えっ?」
「想いの時間の差が、君を悩ませているんだ」
「でも、ちゃんと答えは出すよ。桐島君の想いに」
「やめよう」
「えっ?」
「やめて、一度リセットしよう」
「リセット?」
「もう一度、今から始めるんだ。友達として」
「でも…」
「なんて呼んだらいい?」
「えっ、な、何でも…」
「じゃあ、マコ。でいいかな?」
「…うん」
「宜しく。マコ」
改めて握手を交わし、美沙は無理矢理なものではなく自然な笑顔を取り戻し、同時にそれまで堪えていた涙が溢れだしてきた。
「うぅ…。お化粧が」
メイクを気にする美沙に桐島は笑みを溢し、手を伸ばして一緒に涙を拭いてあげた。
いつの間にか後ろのテーブル席へと移っていた桐島と美沙。向かい合って座り、お互いをしっかりと見つめながら話し始める。
「この前の返事、するね」
「うん」
「私は、なんて言うか…。多分、好きなんだと思う」
カウンター席の真希が口に手を当てて何かを堪える。
「だけど、冷静に考えると、私は桐島君の事を何も知らなくて、ただ告白された事に対して舞い上がってるだけなんじゃないかって、そう思うようにもなって…」
美沙の視線が表情と共に、だんだんと落ちていく。
「考えれば考えるほど、この気持ちは本当なんだろうか? 彼は本当に私の事が好きなんだろうか? 私なんかで、いいんだろうか? て、頭がぐちゃぐちゃになってきて…」
「うん」
優しい表情でじっと話を聞く桐島。
「ほんと言うと、もっと時間を掛けて答えを出したかった。でも、それじゃあ申し訳なくて」
「何で? 俺の事なら気にしなくていいのに」
「でも、ずっと待ってたんでしょ? あの頃からずっと」
「覚えてたんだ…?」
首を横に振る美沙。
「思い出したの」
予想してなかった展開のようで、瀬野と真希はそれまでの表情をやめ、神妙な面持ちで聞き入っていた。
「初めて会ったあの時。あなたは私の名前を聞いて」
「君は、自分の名前が嫌いだと言った」
「うん。そして、そんな私にあなたは言ったよね?」
「俺は、その名前も君も、どっちも好きだ」
二人は笑顔を溢し、話しを続ける。
「私は訳が分からなくなって、それで、逃げた」
「ハハハ。あの時は俺も驚いた」
「ごめんね。でも最後の言葉は、ちゃんと聞こえてたよ」
「そうか」
「ずっと、好きでいるからー! て」
「ちゃんと届いてたんだ?」
「うん」
「いや、届いたのは今か…」
「ん?」
「なぁ、もう一度、言わせてくれないか?」
「えっ?」
桐島は表情を改めて凛々しく姿勢も正し、それに対し美沙も背筋を伸ばして構える。
「俺はずっと君を好きでいる。今も、これからも、君の側にいられる限り、この愛を捧げ続ける」
言葉は静かに時を止め静寂をもらたらし、その時を大事に心に刻むようにそっと目を閉じて、やがて現実へと戻っていく。
「ありがとう…」
その様子をじっと見ていた瀬野は真希を気遣うように肩を抱き、涙を堪える真希はそれに身を任せた。
桐島は満足そうにして美沙の方を見たが、美沙の表情は曇っており、震える唇を噛みしめていた。
「ごめんね」
「何が? 別に謝らなくても」
美沙は首を横に振り、そして一呼吸して無理矢理に表情を笑顔に変えて言った。
「桐島君は私の事、ずっと好きでいてくれたんだよね?」
「ああ」
「なのに私は…。こんなに愛されてるのに私は」
美沙の笑顔が崩れていくのを、桐島は悲しげに見ていた。そして、悩んだ桐島は一つの答えを出した。
「君のせいじゃないよ」
「えっ?」
「想いの時間の差が、君を悩ませているんだ」
「でも、ちゃんと答えは出すよ。桐島君の想いに」
「やめよう」
「えっ?」
「やめて、一度リセットしよう」
「リセット?」
「もう一度、今から始めるんだ。友達として」
「でも…」
「なんて呼んだらいい?」
「えっ、な、何でも…」
「じゃあ、マコ。でいいかな?」
「…うん」
「宜しく。マコ」
改めて握手を交わし、美沙は無理矢理なものではなく自然な笑顔を取り戻し、同時にそれまで堪えていた涙が溢れだしてきた。
「うぅ…。お化粧が」
メイクを気にする美沙に桐島は笑みを溢し、手を伸ばして一緒に涙を拭いてあげた。