揺れて恋は美しく
無造作に置かれた携帯電話が鳴る。
慌てる事なく手に取り相手を確認すると、美沙は電話に出ずに持ったまま固まる。
着信音が消えた画面には幾つもの桐島からの着信履歴があり、美沙はまだ手に持ったままじっとそこから動かない。そして程なく二回目の着信が鳴ると、今度は躊躇いながらも電話に出た。
オヤジン寮の広間ではママとレイコが、なにやら神妙な面持ちで話し込んでいた。

「つまり、あのステージの建設に携わった事で、桐島グループの株価も下がってるって事?」

「それだけじゃないのよ」

「え?」

「トンちゃんの話しだと、ここ数ヶ月、立て続けに事故や災害が起きてるらしいの」

「ええ? 何それ? 誰かが陥れようとしてるって事?」

「でも、それにしては地味だと思わない? どれも会社はちゃんと発表してるし、事故や災害と言ってもニュースになる程の大きなものではないもの」

「確かにね」

二人が悩み考え込んでいるところに、二階から勢いよく駆け降りて来る足音がして、二人は広間を通りすぎる美沙を確認して追い掛けるように広間を出た。

「美沙? どうしたの?」

「ちょっと、出掛けてくる!」

ママとレイコが玄関まで来ると、美沙が慌てた様子で靴を履いて飛び出して行ったしまった。

雨が上がった夜道を、息を切らし美沙がやって来たのは、瀬野が住むマンション。瀬野が液晶付きのインターホンで美沙を確認して下のドアを開けると、美沙は呼吸を整える間もなくエントランスを駆けて行った。
待っていた瀬野が部屋のドアを開け美沙を招き入れる。

「桐島君は?」

「大丈夫。眠っているよ」

ベッドで眠る桐島は額に熱冷ましのシートを貼っていた。

「私のせいで…」

「何があったか知らないけど、蒼太はそんな風には思ってないよ」

「いいえ。違うんです…。桐島君はきっと、雨の中私を探して」

「だとしても、それは蒼太が選んだ事だから」

「でも…。でも、一杯着信があって、私が電話に出ないから、きっと心配して!」

「美沙ちゃん。ちょっと、外出れるかな?」

「えっ?」

桐島を心配そうに見詰める美沙。

「蒼太なら大丈夫。熱はもう下がってるから」

「はい…」

「君に、話しておきたい事が有るんだ。いや…、話さなきゃいけない事が、有るんだ」

真剣な眼差しで言う瀬野に美沙は表情を強張らせて黙り、再び桐島を確認するように見ると瀬野に対し頷いて見せた。
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