揺れて恋は美しく
閑静な住宅街にて一際目立つ一軒の豪邸。その中の書斎のような部屋では、桐島の父親がデスクに向かってなにやら考え事をしていた。

「確かに、例の事故に関しては少々行き過ぎな感もある。会社としてもそれなりの損失を受けた」

父親はデスクの端に置かれてた見合い写真を手に取り開いて、そこに写る玲美を見ながら言った。

「この見合いを良く思わない輩が、いるのかもな…」

父親が考えを巡らせていると部屋をノックする音が聴こえて、父親は見合い写真を閉じてそこに置き、ドアの向こうに返事をした。

「どうぞ」

ドアが開いて部屋に入って来たのは桐島蒼太。

「蒼太か、そこに座れ」

二人掛けのソファーが、間にガラスのテーブルを挟んで二つ向かい合ってあり、その一つに桐島が座ると、父親は見合い写真を持って向かいのソファーに座った。

「良く決心してくれたな」

「俺は、会ってもいいと言っただけだけど」

「ああ、分かってる。決して無理強いするつもりはない」

「なら、いいけど…」

父親は見合い写真を桐島に見せる。

「北条玲美さんだ」

「北条玲美!?」

そこに写るのは間違いなく美沙の友達の玲美であり、それを確認した桐島は驚き瞳を泳がせ動揺を隠せないでいた。

「ん? そうか、お前と同じ大学だったな」

「え? あ、ああ」

「で。来週末辺り、どうだ?」

「来週?」

「都合でも悪いのか?」

「あ、いや…。別に」

「じゃあ、そう先方に伝えるぞ?」

桐島は困惑した表情をしながらも頷いて見せた。
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