ミッドナイトインバースデイ


「中に、入ってください」
「……え、でも……」
「いいから、早く」

 少年の勢いに押されて、おずおずと頷く。引きずられるようにして館内へ入れば、館内は随分と豪華な調度品に飾られていた。廊下は真っ赤な絨毯が引かれ、ふわりと足が沈む。また天井には、アンティーク調のシャンデリアが光を反射してヴェネチアンガラスがキラキラとひかっている。

 随分奥まで部屋があるようで、部屋数は分からない。けれど、こんなにも広い屋敷だというのに、ここもまた随分と静かなのだ。

「あの、私以外に、他の人ってこの場所に来ていたりしないかしら?連絡とらないと、きっと心配して……」
「誰も来ていませんし、そもそも、ここに立ち入ることは出来ない」

 少年の不可解な言葉を理解するのはとうに諦めた。ぎゅう、と紫織の手を握る少年の掌は、熱を合わせようともいっこうに暖まる気配はない。よっぽどの冷え性なのだろう。

 一際大きな扉を前に、少年がようやく紫織の手を離す。扉には、細かな彫刻が施されており、鈍い金で装飾されている。ゆっくりと押し開ける。

「シノブ、お待たせしてごめんなさい」

 少年の背に隠れて、中は見えない。彼に続いて室内に足を踏み入れれば、庭と同じ薔薇の匂いが立ちこめていた。そっと視線を上げて、心底驚いた。

 ベルベッド生地で出来たアンティークソファに寝転がっていた青年が、少年の声でゆっくりと顔を上げた。長い手足はソファからはみ出してしまっている。随分と身長が高い。
 何より、眼前に現れた彼の美貌から目が離せなかった。艶やかなハニーブロンドの髪に琥珀色の瞳。切れ長の瞳には長い睫が綺麗に生え揃っている。窓から差し込む月光に照らされた彼は冷たく煌めき、まるで造りものみたいに見えた。

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