ミッドナイトインバースデイ

「これ、何のジャム?」
「…あっ!勝手にさわんな!!」

 ジョウロを放り出して、紫織から小瓶を取り返す。

「いいじゃん、別に。で、なあに?」
「……薔薇のジャムだよ」

 フランスパンにたっぷりとジャムを塗り、無言のままに紫織へと差し出した。くれるんなら、最初から大声上げないで欲しい。思ったけれど、そのまま礼だけいってぱくりとパンを頬張った。ふわりとした上品な香りだ。ふんだんに入った花びらの食感も良い。

「美味しい!はじめて食べた」
「ふうん」
「これもハル君のお手製?」
「そう。薔薇は生で食べるとたまに腹壊すから」
「…え、薔薇を食べるの?」
「血液の代用品」

 怖がらせようと思っているのか、にんまりと目を細めるシノブを無視して、もう一口パンを齧った。内心、冷やりとしたものの、態度に出すのも彼を喜ばすだけのようで憚られる。無心にもぐもぐと口を動かしていれば、シノブはつまらなそうな顔をしつつ、カップに紅茶を注いで紫織へと手渡した。

「どう、ここの生活は。少しは慣れた?昔、アンタがいた場所とは随分違うと思うけど」

 不意に、隣に腰掛けてパンにのせられたジャムを舐めていたシノブが問うた。驚いて、振り返る。シノブの視線はただ真っ直ぐ先をじっと見つめている。
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