ミッドナイトインバースデイ
Helloween Night
◎
ふと、紫織は自室で目を覚ました。ワインを飲みながらポーカーをしていたはずなのに、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ベッドにはトランプのカードが散らばっている。
アルコールの残った身体をゆっくりと起こして、窓の外を覗く。分厚い雲に覆われた空からは、ぽつぽつと雨が降り始めていた。この調子なら庭の薔薇に水やりはしなくてもよさそうだ。
ハルとシノブは、眠ってしまった紫織を置いて部屋を出たらしい。しんと静まりかえった廊下に急に恐ろしさがこみ上げた。いくつかの部屋を覗いてまわる。
「ハル君、シノブ……」
大きな声で読んでみても、ふたりからの返事はない。足早にサロンへと向かう。ぱちぱちと暖炉の中で火花が散るだけだ。不安、焦燥感、そんな感情がじりじりと胸に溢れ出る。いつだって気づかない振りをしてきた感情だ。ワインを飲んで、ギャンブルに興じ、他愛ない会話で蓋をした。
(未練なんてないでしょう)
この場所に、紫織を傷つけるものはない。彼らは彰のように不誠実じゃないし、ストレスの元凶となるような事柄も存在しない。
焦っていた。早く、ハルの可愛らしい笑顔がみたい。シノブの演奏が聞きたい。このくだらない感情をかき消して欲しいのだ。
どくどくと打ち鳴る心臓。ゴロゴロと屋敷の外で雷鳴が轟く。たったひとつ結んだ約束ですら、この焦燥の前にあっという間にかき消されてしまっていた。