ミッドナイトインバースデイ
よろよろとした足取りで、サロンへと戻った。
先程の光景が、瞼の裏から離れなかった。ソファに腰をうずめ、両手で口元を覆う。ショックだった。彼らが、本当に人間ではなかったことへの事実じゃない。分かってしまったのだ。
「紫織」
「……あっさり約束破ってんじゃねえよ。馬鹿」
貧血気味なのか、ふらつくハルがシノブに支えられながら現れる。たったひとつの約束を破った紫織にもっと怒ったっていいはずなのに、シノブから馬鹿と言われただけだ。
「…痛くないの?それ」
首筋の噛み傷を指させば、「もう慣れました」とハルは苦笑する。
「怖がらせたくなかったから、黙っときたかったんですけど」
「びっくりしたけど、怖くはないよ。ショックだっただけで」
「どっちだよ、それ」
シノブが小さく笑った。それにつられて紫織も笑う。彼らを目の当たりにして無視できない感情を受け止める。静かに覚悟をした。
「ごめんね、違うの。ただ、やっぱり羨ましくなった」
「紫織……」
「わたしにもさ、どんなに痛くても、会いたい人がいた。辛くっても、帰りたい場所があったの」