ミッドナイトインバースデイ
「三年間、紫織を忘れたことなんて一度もない。そりゃ、頑固だなとも思ったし、恋しいっていうだけの感情じゃなかったけど…、それでも、美緒から紫織の近況を聞いては他の男と結婚するんじゃないかって焦ってた」
彰は、真っ黒い瞳をゆっくりと持ち上げて紫織をうつす。
どきりとした。その瞳が好きだった。ファインダーを覗く、その真摯な眼差しが。じわりと思い出す。
「俺、紫織と別れてから誰とも付き合わなかったし、セックスだってしてないよ」
「……え!?う、嘘でしょ……!!」
「ほんとう。命賭けてもいい」
ゆっくりと彰に近づく。
そっと身体に顔を寄せて、すんと鼻を鳴らす。あの頃と変らない香水。混じりけののない彼の匂いだけがした。
「もういちど、チャンスが欲しいんだ」
「随分、自分勝手ね」
「お願い、紫織」
俯く彰を前に、言い淀んでしまう。
痛みと恋しさとが胸に渦巻いて、どうしたらいいか分からなくなる。楽しかったことも沢山あったはずなのに、細かな傷で最早分からなくなってしまった。首を縦に振ってしまえば、また傷つくのではと怯えてしまう。昔は、こんなに怖がりじゃなかったのに。