ミッドナイトインバースデイ
――そう、三年。
彰、かつて恋人であった彼と最後に直接話をしてから、丸三年だ。
学生のときのように、緩やかな時流とは違う。多くの変化と妥協、プレッシャーを呑み込み過ごす一日の積み重ねは、その頃の比ではない。
彼は、元々美緒の仕事仲間だった。
ファッション雑誌を飾るモデル達の専属カメラマンである。入社三年目、初めて一人で作家を担当させてもらったはいいものの、噂以上に偏屈で有名な男で日々のストレスは募るばかりの頃だった。何となく、付き合い始めた。本当に、何となくという言葉がぴったりな始まりだった。
酒が入ってふわふわと気持ちよくなって、個室の居酒屋でふたりきりになったのをいいことにふざけてキスして、その延長線上で寝た。お互い、朝起きたときは妙に気まずくて「なかったことにしよう」頷き合った。けれどその時、酷く胸が痛くなって、紫織は彰に恋をしていることに気づいてしまったのだ。
彰は、売れっ子のカメラマンだった。
甘いマスクに反して、カメラを持つ筋張った男らしい掌は酷く色気があった。可愛い子も、綺麗な子も、彼に撮られたくて必死だった。彰は、そんな彼女達を据え膳食わぬはの勢いで取っ替え引っ替えしていて、そういう彼をずっと苦々しく思っていたはずなのに、それはまさか、相手の女の子達への嫉妬や羨望だと気づいたときには絶望した。
そうして、極力合わないように避けるようにしたら、なぜか彰が追ってきた。逃げて、追いつかれてはセックスして、また逃げて…、その繰り返し。ついには、こんな関係は嫌だと紫織が声を上げた。私はあなたが好きなのだから、そうきっぱり告げて今度こそさようならをしようと決意した。