ミッドナイトインバースデイ
「…どういうことよ、これ…」
足早に洋館の外へ出る。
先ほどはすっきりと晴れたていたそこは、濃霧に覆われていて数メートル先でさえ一切見えない。おそるおそる、足を進める。このままここに立ちすくんでいても仕方ない。ごくりと息をのんで、スマートフォンの光で足下を照らしながらゆっくりと歩く。
門を抜け、数時間前にタクシーで通った林道に出た。あまり手入れのされていない道には、それでも数メートルおきに青銅で出来た外灯が立ち、ぼんやりとした橙色で道筋を照らしている。紫織は、それだけを頼りに不安に塗れる気持ちを押さえながら先を目指す。
―なんで、誕生日を祝われてたはずの私がこんな目に…。大体、皆して主役を置いて帰っちゃうっていくらなんでも酷くない?
ぶつぶつと文句を漏らしながら顔を上げる。
すると、霧に覆われた先がぼんやりと光っているのに気づく。あれは、おそらく家の光だ。ほっと胸をなでおろして、光を目指して走る。少しでも目を離せば見失ってしまいそうで恐ろしかった。携帯も通じず、それほどまでに今は頼りになるものがない。
むしろ、あの光の中に紗奈や美緒は隠れているのではないのだろうか。そうだとしたら、文句のひとつでも言ってやらなければ気が済まない。
大木に囲まれた古い洋館だ。
赤い煉瓦には、びっしりとツタが這い、重々しい雰囲気でそこにある。咽せるような花の匂いに周囲を見渡せば、そこには見事に手入れされた真っ赤な大輪の薔薇が、庭を埋め尽くすように咲き誇っていた。
「…ここは…」
声が震えた。
不意に、背後でざくりと土を踏む音に肩が跳ねる。