レイプ
それを見るともなく眺めていた澪の肩に、男の手が乗ったのはそのときだった。
どうしたの? と、問おうとした顔が歪む。
ぎゅっと爪を立てられて、その痛みが肩を襲っていた。
男の顔を窺うと、鋭いナイフのような目が澪を凝視していた。
「俺はあいつほど能天気じゃねぇ」
「…………っ」
運転席から後部座席に身を乗り出して、澪の身体を引き寄せてくる。
強引に掴まれている肩が抉れるように痛い。
けれど気圧されるように言葉を飲み込んでしまったのは、自分の価値を品定めするような不快な眼差しによるものだ。
自分の顔、首筋、胸元、スカートから覗く膝を這い回る視線に耐えるのが難しい。
「どんな理由があったとしてもよぉ、被害者が誘拐犯の仲間気取って協力なんかするはずがねぇんだよ」
「そんなことっ……」
「無事に家へ帰れたとして涙ながらに両親に迎え入れられてみろ。おまえは絶対に親に俺たちのことをペラペラ喋るに決まってるのさ」
座席を後ろへ倒し、男がさらに距離を詰める。膝がシフトレバーを越え、後部席の下に足が侵入する。
澪の頬が強張った。
わたしはそんなことしない、と叫ぼうとしたのに声が出ない。
「だから、な?」
男がニヤリと笑う。小動物をいたぶる猛獣のような目に、全身が震えた。
「安心しろ、殺しはしねぇよ。俺たちもそこまで悪人じゃあねぇし、死体じゃ取引中止になっちまうかもしれねぇだろ?」
肩を掴んでいた手が、澪の首を軽く絞める。
男の手はけっして大きなわけではなかったが、殺すことに迷いがなければ、簡単に折れてしまうかもしれなかった。