レイプ
「駅だったら、小学校をこのまままっすぐ進んで、左に曲がるの」
わかりやすく説明しようとして、傘をたたみ、指を伸ばす。
「ほら、あっち。銀行の看板が見えるところを、まっすぐ――――」
「うん。よくわかったよ、ありがとうよっと!!」
男が澪の両脇を掴んで持ちあげる。
え? と思う暇もなかった。
黒い車の中に投げ込まれて、男は澪の傘を路上に投げ捨てる。
「ごめんな」
車のドアに軽く頭をぶつけ、びっくりして声もでない澪に、男は努めて優しく言った。
「その制服、聖マリア女学館の小等科だろ? しばらくおじさんたちに付き合ってもらうけど、お嬢さまらしく騒がないでくれな?」
男は澪の隣に座り、澪の制服の乱れを整える。そうして澪の手から学生鞄を取りあげた。
「鞄は預からせてもらうよ」
口調は優しいけれど、やっていることは誘拐という名の犯罪だ。
運転席の男は車を止めていたときから一言も話さず、陰気な印象を抱かせる。
「よろしくね、高野澪ちゃん」
男が鞄の中から澪の学生証を取り出して、名前を読みあげる。
そのときになって、じわじわと迫ってきていた恐怖を実感した。
この日、高野澪は誘拐されたのだ。