レイプ
車は走るよ何処までも
車が滑り出すと、後部ガラスに映る、通いなれた小学校が、瞬く間に小さくなっていく。
澪は後ろを見つめ、学校が完全に見えなくなると、前を向いて座り直した。
今さら泣いたところで逃げられないことを、澪は知っていた。
だから、おとなしく男を見る。
彼は澪の鞄の中をあさり、携帯電話や防犯ブザー、家の鍵、そして初めに見つけた学生証を引っくり返しては見つめ直した。
「高野澪、十一歳。聖マリア女学館の小等科の六年生。住所は東京都田園調布――」
そう言って、学生証に記された澪の情報を読みあげる。
運転席の男が笑った。
「田園調布? こりゃあいい。いい餌が釣れたじゃねぇか。いくらになる?」
「さあな。――澪ちゃん、ご両親のお仕事はなにか、教えてくれるかい?」
「……よくわからないわ」
澪がそう言うと、男は首を傾げて問いを重ねる。
「この住所にはいつから住んでるのかな? 家族は何人?」
「わたしが初等科に入った頃からよ。家族はわたしを入れて三人」
「なるほどね」
男は相づちを打ち、運転席の男に目を遣る。
「早い方がいいだろう。移動しながら電話を掛ける」
「了解」
ハンドルを握る相棒が頷いたのを見て、澪の隣に座っている男は鞄の中から彼女の携帯電話を取り出す。
それを澪に手渡した。
「なに?」
「家に掛けて」
男の言葉に澪は少し言いよどんだ。
「……今はお父さんもお母さんも家にいないわ。共働きだから」
「へぇ。じゃあ、お母さんに電話して」
頷いた男はたいして驚いた様子もなく、指示してくる。