レイプ

頭が真っ白になる瞬間てあったんだね


 ぽつりぽつりと車が点在する首都高のサービスエリアは、レストランや土産物店、ファーストフード店、トイレなど充実している。
 停めてある車が少ないのは雨のせいだろうかと、澪がぼんやりと外を眺めていると、三人の乗る車は出口に近い場所に停まった。

「飯を買ってくる。食べられないもの――アレルギーとかある?」

 男の気遣いがなんだか誘拐犯らしくなくて、澪は笑いながら首を横に振る。

「ないわ」

「そう。あと、携帯電話を預かるから」

 そう言われて、抵抗もなく澪は彼に携帯電話を手渡す。
 きっと、また母と連絡を取り合うのだろうと思って。
 ある意味、澪は彼らの共犯者だ。
 だからどんなやりとりが交わされるのか、ひどく気になっていた。
 けれど男は澪の手から携帯電話を受け取ると、なにも言わずにドアを開けた。
 同時に冷たい風と雨粒が車内に入ってきて、澪の髪が乱れる。

「じっとしててくれよ?」

「わかってるわ」

 念を押すように男に言われて、澪は素直に頷いておいた。

 逃げるわけがないのに、と思いながら。

 彼が車の下に置いていたビニル傘をさして、歩きながら携帯電話を耳に当てて去っていくのを窓に食いついて見送る。

 彼が進む先には、澪もよく知っているチェーン展開のレストランがあって、思わずお腹に手を当てた。
 誘拐され、車に乗ってから二、三時間は経っている。
 雨空のせいでもともと外は薄暗かったが、晴れていれば夕陽が沈む頃だろう。
 澪にとっては、もう夕飯時だった。お腹も空いてきた。

 なにか身体が暖まる弁当でも買ってきてくれることに期待して、男の姿を探した。

 人目を避けるようにビニル傘を折り畳んだ彼は、レストランの前を素通りして、トイレの脇でなにやら話をしている。
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