僕だけの窓口女子
「・・・毎日のように夢見てるよ。好きな男の子と手をつないで歩いてるとこ」


虚空を見つめる千年の瞳は恋する乙女のように思えてくる。


ドクン ドクン


心臓が高鳴り、心拍数が上昇していく。
何だろう、この気持ち。今まで味わったことのない感覚。


「・・・なあ」


うん?と振り向く。いつも見せる顔なのにドキッとしてしまう。
平常心を保ち、喉から声を発する。


「手、つないでみないか」


千歳は僕の発言に対し、目を真ん丸にさせた。
自分でも大胆発言をしてしまったと赤面するが、言い出したからにはしょうがない。


「い、いいから、手ぇつなぐぞ!」


僕の窓と千歳の窓の距離は約二メートル。窓枠から身を乗り出し、腕を伸ばす。
千歳も応えるように手を伸ばそうとする。


しかし、手は麻痺していて、腕は伸ばせても手が挙がらない。手の甲が垂れ下がった状態になってしまっている。


僕が直接、彼女の家を訪ねればいい話なのだが、その時の僕はそんなこと頭に入っていなかった。


「あと少し」


少しでもバランスを崩せば下へ落ちてしまう。細心の注意を払いながら千歳の垂れ下がった手に腕を伸ばす。


その時、お互いの中指が当たった。
無意識に二人と詣でを引っ込める。


僕は部屋に戻り、触れた中指の先端をじっと視線を向けた。

冷たい感触。細くて小さな千歳の中指に当たったのだ。
しばしの間、指を見つめた後、顔を上に向ける。


触れた手を胸に抱きながら千歳は僕を真っ直ぐ見据えていた。


「何か・・・キスしたみたいだね」


千歳の頬はほんのり赤く染まっていた。
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