僕だけの窓口女子
誰もいない体育館に僕は突っ立っていた。
部活が始まるまであと二時間以上ある。


だけど、家にいられなくて早めに着てしまった。


用具室からボールを引っ張り出し、そのうちの一つを手に取る。
足は思ったよりも早く治り、今では外周も出来るようになった。


ダンダンダンダン


軽くドリブルを打つ。前まではワンバウンド出来るか出来ないかの状態だったのに。
選手が壁になっているのを思い浮かべ、速攻する。


わあああああああ!!


観客の歓声が脳内再生され、試合はクライマックス。点数は一点差。ここでゴールを決めなければ勝ち目はない。


相手をすり抜け、フリースロー地点までやってきた。残り時間数秒、打てば一気に逆転だ。

ボールを持ち上げ、ジャンプシュートを決める。
だが、リングの裏側で思いがけない人物と目が合う。


千歳だ。しかも、笑顔で僕を見つめている。
胸を突き破る勢いで心臓が轟く。

集中力が途切れ、ボールはリングに弾かれて力なく床に落ちる。


おじいちゃんやおばあちゃんが死んだ時も涙は出なかった。
薄情かもしれないが、人が死ぬと放心状態になるんだと自分なりに解釈する。
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