僕だけの窓口女子
あの後、千歳は緊急搬送された。
何とか一命は取り留めたものの、夜中に容体が急変してそのまま帰らぬ人になったのだという。


あの時、何で僕はあんなことをしてしまったのだろう。
そしたら、これからもずっと千歳と話すことが出来たかもしれないのに。


もう、あの窓から彼女が顔出すことはない。

いつものように元気な挨拶をしてきて、いつものように笑顔を振り撒いてくれない。


もう、千歳はいない。


「う・・・うああああああああああああああああああああああ!!」


ダムが決壊したように涙が溢れてきた。
涙が出てこないのではなく、ずっとムキになって我慢し続けていたのだ。


こんなに涙は出てくるものなのだと身に沁みて感じる。


初めて気づいた、千歳への想い。


死ぬ直前、千歳は母親にある伝言を残した。


僕と毎日のように話せて楽しかった、と。
僕のことが好きだったと伝えてほしい、と。


千歳は怒っていなかった。むしろ、僕に感謝をしていた。
感謝をしなければならないのはこっちの方なのに。


恋愛不器用な自分が悔しくてたまらない。

なのに、千歳はこんな僕を好きだと言ってくれた。


恋した相手は幼馴染でもない、同級生でもない。
隣の古いアパートに住む女の子。


僕は千歳に触れた中指の先端を見つめる。
まだ、冷たくて柔らかい感触が残ったままだ。


その中指の先端にそっとキスをした。



しょっぱくて、ちょっぴり切ない味がした。



END
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