DUNK!
そう言えば、昨夜も一昨日も、その前もろくに寝ていない。それを思い出したのは、千華とお弁当を食べている時だった。
朝から何人かに心配されたけど、笑って返している。
「ホントに大丈夫?クマ出来てるわよ?」
誰のせいですか。
なんて言えないから頷いておいた。
「この後の体育、休みなさいっ。先生に言っといてあげるから」
力なく頷いてた。なんだか彼女は姉のようだった。
その彼女が小声で訪ねてくる。
「御山くんと話せた?」
首を横に振り、一番後ろの席で友達や女の子に囲まれている御山くんをちらりと見る。その様子を見た千華は、私の言いたい事を理解したようだ。
「後でメールしときます」
「…」
心配そうな表情は変わらなかったけど、もう何も言ってこなかった。
雨が降りだしたので、今日の体育は体育館を半分づつ使って男子はバスケ、女子はバレーです。って先生が言ったから、私は今体育館の壁に寄りかかって見学中。
楽しそうに体を動かす千華をぼんやり眺める。背が高めだから見つけすいなぁ。
そんなことを考えていると、ボールが大きく逸れ、バスケをしている男子の方へ飛んでいった。
「私取ってくるっ」
体が動くのと言うのとどちらが先だったか。女子に新たにボールを一個投げて男子の方へ。
何でこんなこと言ったのか解らない。けれど、目は御山くんを探していて、単に彼の姿を見たかったのかもしれない。
「小谷さんっボール!」
小走りで私を呼んだのは御山くんだ。
有難うと声を出したはずなのに。
「危ないっ!」
その声は男子の叫びにかき消され、見ていたはずの御山くんの姿は一瞬で体育館の天井になって。
ドッ…!
「っ…!」
衝撃音、小さな悲鳴、転々と転がるバスケットボール。
一体何が起きたのだろう。少し背中が痛い。左を向けば苦痛に歪む彼の顔があって、周りの騒がしさや悲鳴が耳を通りすぎていった。
「……みやまくん?」
「…良かった、ボール、当たんなくて」
「千代っ!御山くん!」
「あ…ちか」
「とりあえず保健室行こっ凄い音したもんっ」
千華が御山くんの背を軽く押す。待って、と言ったはずの声が思った以上にか細くて、踏み出したはずの足がふらついて視界が、歪んだ。