DUNK!
「あの人、千華の彼氏なの」
そう言うと、ピタリと彼の歩みが止まった。思わず私も立ち止まる。
「そうなんだ…」
呟いた彼の表情が、少しふせた目元が、私には、落胆したように見えた。
どうしてそんな顔するの…?…もしかして…。
再び歩き出した彼の隣で、他愛もない話をする。今、そんな夢が叶っていると言うのに、私は上の空だった。
御山くんが落胆した理由が、なんとなく想像ついてしまったからだ。それは、私にとってはあまり良くない理由で、胸が苦しくなった。
上の空のまま下駄箱に着いてしまった。確か彼も自転車通学だったから、駐輪場までは一緒に行けるかな。なんて思いながら、下駄箱の扉を開けて上履きとローファーを交換する。
「おわっ」
「御山くん?どうしたの…って…」
目を向けた先には、足元をラブレターで埋める御山くんがいた。
聞けば、毎日朝と帰りに手紙が詰まっているらしい。ちゃんと持って帰ると言う彼が、落ちた手紙を拾うのを手伝う。
送り主には見知った名前がいくつもあって、ため息が出そうになった。
「有難う」
「ううん、なんか大変だね…」
「でも、気持ちは嬉しいんだよな。まぁ全部断ってるけど」
返事は、しなかった。
彼が断ってるのはたぶん、あの子が、好きだから。
「小谷さんて、足小さいのな」
「え?あ、うん。…22センチ」
「へぇーっちいさっ。身長聞いて良い?」
「152センチくらい、かな?」
「30センチも違うのか、俺182だし、足もほら」
とん、と私のローファーの横に並べられた、28センチのローファーはまるで大人と子供のようだった。
「なんかおもしろくないか?」
私に向けられた満面の笑みで、ローファーは視界の隅っこの更に隅に追いやられた。
神様、彼は私の心臓を壊す気でしょうか。何の試練なのもう…!