君が嘘をついた理由。
きっと、目の前の人が、私を心配そうな顔をして見ていたからだと思う。
「……だから、腕、手当」
単語しか返してこないけれど、視線はまっすぐさっきまで掴んでいた腕へと。
向けられている。私が反対の手を添えている、この部分。
あぁ、これか。
一瞬だけ
その存在自体を忘れていて。
ケガしてたんだ。と思い出せば、忘れていたはずの痛みが戻ってくる。
「手当するから、おいで」
その声に、自分の腕を見ていた顔を上げると、
男はもう階段を上っていた。
どうやら目の前のアパートが男の家らしい。
無理やり連れ込むつもりも、なにもない。
私がくるかどうかも気にしてないかのように上っていく。