君が嘘をついた理由。



声をかけてくる様子は無く、ただ繰り返し撫でられるだけ。…本当に猫だと思っているんだろうな。


誰かに頭を撫でられるなんて経験、皆無だった。


男の人の、大きな手はまるで頭を包み込んでくれるようで、心地がいい。



もう一度目を閉じる。

―――弱っているからだ。


急に親が倒れて、疲れて、無気力だから。

だから、ここにいたい、と思うのだろう。


理香に言った通り、ずっとここでお世話されているつもりはない。




少しの間だけ。少しの間だけ、甘えさせてもらう。向こうは私の素性を知らない。だからこそ、こうして普通にしていられる。




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