極上の他人
「それでは、失礼いたします。もう二度と会うことはないと思いますが、お仕事頑張ってくださいね」
私は小さく頭を下げ、気持ちを切り替えて輝さんに背を向けた。
輝さんに対する怒りというよりも、呆れているといった感情をぐっと心に収めて、落ち着いた声で話している自分を偉いと思いながら。
どちらかと言えば好みの顔だなと、ふと思ったなんて顔に出さず、そしてこの店もなかなかいい雰囲気でまた来たいなと思ったことも隠したまま。
お店のドアに手をかけ、ゆっくりと押そうとした瞬間。
私の腕をつかむ力強い力によって、私の体はあっという間にドアから引き離されて、ずるずると引っ張られた。
「ちょ、ちょっと、」
はっと後ろを振り返ると、面白そうに笑っている輝さんが、私の顔を覗き込む。
「せっかく来たんだから、おいしい夕食を食べて欲しいな」
「い、いいですよ。これ以上ここにいる理由なんて、ないですから」
「理由なんてどれだけでも作れるさ。カウンターで申し訳ないけど、とりあえず、自慢のカレーで俺の点数を上げようかな。な、ふみかちゃん」
「……え」
私の名前、ちゃんと、知っているんだ。
少し、驚いた。