極上の他人


熱のせいかぼんやりとしている思考回路の中でも、おかしいと思うことが重なっていた。

「輝さんがロビーからインターホンを鳴らしてくれた後、私はエレベーターに乗るためのロックを解除するのを忘れたのに、輝さんはあっさりとこの部屋まで上がってきたよね。
暗証番号を知っていたから?」

「……ああ。暗証番号は史郁の誕生日とこの部屋の番号、そして弓香先輩の誕生日。誠吾先輩に教えてもらった。12ケタの暗証番号なんて面倒だな」

「は?教えてもらったって……。そんな、あっさりと」

「確かにあっさり、だったな。アメリカに行くことが決まってからすぐに呼ばれて教えてもらった、というより教えられた。
誠吾先輩は、自分がいない間独りぼっちになる史郁に万が一のことが起きた時、電話一本ですぐに駆けつけるように俺に頼んできた」

私の反応を伺いながら、どこか不安げに話す輝さんにどう返事をしていいのかわからなくて。

「輝さんって、誠吾兄ちゃんから、よっぽど信用されているんだ……」

小さな声で、呟いた。

それにしても、マンションの暗証番号を他人に教えるなんて、誠吾兄ちゃん何を考えてるんだろう。

確かに輝さんは信用できる人だろうし、私の為に時間を割いてくれる。

風邪で寝込んだ私を見舞いにわざわざ来てくれるしいい人だとは思うけれど、それにしても……本当に、輝さんが好きなんだろうな。

あ……『好き』という言葉が心に浮かんだ途端、とくん、と鼓動が跳ねた。

私の気持ちが輝さんにばれたわけではないのに、妙に焦ってしまう。 

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