極上の他人
「新入社員研修の一環で、展示場の仕様決めをしたでしょ?」
「新入社員研修……?」
「そう。花野台の住宅展示場の仕様決め。いくつかのグループに分かれて作ったでしょ?」
「あ……。は、はい。花野台、しました」
新入社員研修が終わってかなり経った今ではその記憶は曖昧になっているけれど、確かに花野台にオープン予定の展示場の仕様について、研修中に決める作業をした。
同業他社数社の商品の建設が予定されているという事で、実際にどんな物件を建てれば集客率アップにつながるのか、グループごとに話し合った。
幾つか出た案の中で、私が参加したグループの案の点数が一番良くて、その晩はグループのメンバーみんなで飲みに行った。
「でも、それがどうして今更」
今更どうして研修中のことを蒸し返したうえに、打ち合わせなんてするんだろうか。
戸惑う私に、佐山先輩はあっさりと教えてくれた。
「研修の一環で仕様の決定作業をすることは毎年のことなんだけど、その中にレベルが高くて具体化してみたい案があって。そして、ちょうどその時期に展示場の建設予定があれば、その仕様が採用されることがあるのよ。
今年はちょうど花野台の予定があったから、採用する前提で研修中に仕様を考えてもらったの」