極上の他人


家に帰って、お風呂に入って、そして冷蔵庫からいくつかのお惣菜を取り出して食べながらも、考えるのは仕様書のことばかり。

頭の中には、A3用紙に細かく書き込まれている文字や数字が浮かび、消えてくれそうもない。

「現場にも行けるし、楽しみだな」

通勤バッグから取り出した持ち出し可能な幾つかの資料をテーブルに広げながら、実際に完成したらどんな気分になるんだろうな、と思っては口元が緩み、夕食が全然すすまない。

そんな時、手元に置いていたスマホが着信を告げた。

はっと意識を現実に戻して画面を見ると、『輝さん』と表示されていた。

「わ、輝さん……」

頭の中に浮かんでいた仕様書のことは一気に飛んでいき、私の頭の中は輝さんの甘い言葉と表情でいっぱいになっていく。

体調を崩した私に優しい言葉とその体温を与えてくれたあの日以来、何度か電話で話しているけれど、何度そんな時間を過ごしても慣れないままだ。

輝さんを好きだと気づいて間がない私には、彼との接点全てに右往左往しているような気がする。

それでも、やっぱりこうして電話がかかってくると嬉しくて。

ドキドキしながらも、その感情を上回る幸せな気持ちをかみしめた。

< 119 / 460 >

この作品をシェア

pagetop