極上の他人


あ、釣書を見て、覚えていたのかな。

ちゃんと間違えずに私の名前を呼んでくれた。

そのことに、思いがけなく気持ちが揺れた。

そんな揺れた気持ちが私の抵抗する気力を奪ったのか、そのままずるずる連れて来られたのはお店の奥のカウンター席。

磨き上げられたカウンターの一枚板はきれいな艶を出している。

「じゃ、荷物は預かっておくから」

「え、ちょっと」

にやりと笑った輝さんは、私の手から鞄を取り上げると、さっさとカウンターの向こう側へ行ってしまった。

すらりとした後ろ姿は黒いシャツを着ているせいか更に引き締まって見え、腰の位置の高さに思わず羨望のまなざしを向けてしまう。

本当、見た目だけなら私好みなんだけどな。

性格があんなに軽くなければ、このお見合いを前向きに受け止めて、未来に向けて色々と考えたのに。

でも、女の子に慣れている姿を見せられた後では、このお見合いを進めていく気になんてなれないし。

それに、冷静に考えれば結婚なんて、私には一番遠いものだとしか思えない。

本当、残念。

「店長のことを、気に入ったんですか?」

「え?」

はっと視線を上げると、カウンター越しに私を見つめる男の子がいた。


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