極上の他人
「もしもし、こんばんは」
緊張感を隠せない声は、いつものことだ。
『こんばんは。もしかしたら、今は食事中?』
「あ、はい。さっき帰ってきて……輝さんが冷凍庫に入れてくれたハンバーグを食べてます。おいしいですよ」
『ああ、ひじきも入れてるから、全部食べて早く体調戻せよ』
「……もう大丈夫です。残業してもへっちゃらになりました。輝さんのおかげで夕食もちゃんと食べているし、元気です」
体調を崩して熱を出した時に輝さんが我が家の冷蔵庫に備蓄してくれたお惣菜は、たっぷりあって少なくとも今週いっぱいの夕食に関しては困らないほど。
ご飯を多めに炊いて冷凍してあるし、お味噌汁を作ればとりあえず夕食は完成する。
残業が多い時にはついつい手を抜いた食事で済ませてしまう普段のことを考えれば、今週は天国のような夕食だ。
本当にありがたい。
「仕事が遅いと、どうしても手を抜いちゃうし、コンビニでおにぎり買ってきたりだとかだから……輝さん、ありがとうございます」
電話越しだというのに、そう言って軽く頭を下げた私の耳元には、
『残業って、毎日そんなに遅いのか?』
どう聞いても不機嫌だとわかる低い声が響いた。