極上の他人


ぎゅっと目を閉じて心を落ち着かせようとするけれど、輝さんの言葉をそのまま信じて甘えそうになる心と、そんなことできないと思う心がせめぎ合って揺れ続ける。

あまりにも大きく跳ねている鼓動の音に眩暈を覚えるほどで、今すぐ感情に折り合いをつけるなんてこと、できそうもない。

そんな私の様子を察してくれたのか、輝さんは私を安心させるような優しい声で呟いた。

『この先、史郁に何があっても俺がちゃんと守るから、安心していい。それに、俺に対して不安に思うことがあれば、それは全て不要な感情だから。
余計なことは考えずに、自分のしたいことだけをしていればいい。今まで我慢ばかりしてきたんだから、これからは楽しいことばかりが待ってるぞ』

「そんな……」

私には明るい未来しか待っていないとでもいうような輝さんの言葉には素直に頷けないけれど、それでもその言葉は私の心に染み入って、そうであればいいな、と願ってしまう。

『史郁には、俺がついているから、安心して自分の好きなことだけをしていろ』

甘い囁きに慣れていない私は、せっかく下がった熱がまた上がったように身体が熱くなるのを感じた。

そして、唇に微かに残る輝さんの唇の温かさを思い出していた。

今の私は輝さんに優しく包み込まれているようだ。

慣れていない幸せを慣れないながらも手放したくなくて、その温かさに浸っていると、更に私をとろけさせるような言葉が耳元に届いた。

『もう、離してやんないって、言っただろ?』

そんな言葉を簡単に言う輝さんって……本当に、ずるい。

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