極上の他人


ずるくて大人で、私自身よりもずっと、私のことを大事にしてくれる。

あの日、『熱を出して弱ってるのに、これ以上何もしないよ』と言ってキス以上のことは何もしなかった輝さん。

『離してやんない』と言いながら、その日は抱きしめてくれるだけだった。

「やっぱりずるい……」

ふと呟いた私の言葉の真意を知ってか知らずか、輝さんはスマホの向こう側で小さく笑った。

その声からは、どこかほっとしたような穏やかさが感じられた。

『とりあえず、明日史郁の仕事が終わったら迎えに行くから、お腹すかせて待ってろよ』

「な、私は小学生じゃない……」

『ははっ。小学生ならもっと素直だろ。とにかく明日、うまい夕食用意してるから、史郁は仕事頑張れよ』

「あ、はい……」

キスをされたあの日以来、言われ続けている「史郁」という声にどきりとした。

そして、明日、輝さんに会えると思うだけで心は弾む。

輝さんが何を考えているのかはわからないままだけれど、私が輝さんを好きだという気持ちがさらに強くなったことだけは確かだ。

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