極上の他人
強引な人

その翌日以降、輝さんは約束通り私を会社まで迎えに来てくれるようになった。

私の会社は大通りから一本裏手に入った通りに建っていて、18階建てのビルは遠目からでも目立つ。

オフィス街だということもあって、周辺にはいくつかのコイン駐車場もあり、輝さんはいつもその駐車場に車を停めて私の会社の下で待っていてくれる。

『今、会社の下に着いたぞ。今日の夕飯はロールキャベツ』

そんなメールが届く度、仕事に段取りをつけて慌てて下に降りる毎日に知らず知らず心は弾んでいた。

人見知りもするし積極的に自分を表に出せない私は『おとなしい新入社員』だと思われていたけれど、仕事を終えて明るい笑顔を浮かべながら更衣室を飛び出す姿を目撃されるうちに、そんな印象も少しずつ払拭されていった。

栄養バランスが考えられた輝さん手作りの夕食を摂るようになって、顔色も良くなったのか『きれいになったね』と声をかけられる事も多くなり、私に恋人ができたに違いない。

そんな憶測をも呼んでいると同期の麗ちゃんから聞いた。

その恋人との出会いはきっと亜実さんによるものだとも噂になっていると言いながら、麗ちゃんはくすくすと笑っていた。

『まあ、わが社の社員に恋人ができたのなら、そこに亜実さんがからんでいる可能性は大きいもんね。あれだけコンパを開いてるんだから、そりゃ恋人できたらその向こう側には亜実さんの影って言われてもしようがない』

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