極上の他人
愛しいものが手に入らないことには慣れている。
求めても求めても、次第に遠くなることにも慣れている。
慣れているのは自分の本心を隠す事も同じだ。
「食べたら、遅くならないうちに送っていくから」
「……はい」
さっきの女性の事には一言も触れず、普段と同じ笑顔で私に声をかけてくれる輝さんに、私も普段と同じ笑顔を向けた。
夕食を食べにここに来ることはもうないだろうという気持ちは決して顔に出さず、そして、家まで送ってもらうのは今日を最後にしようと決めているなんておくびにも出さず。
「いつもすみません」
車のキーを手にしてお店を出る輝さんの後を追いながら、心配そうに私を見つめている千早くんに小さく頷いた。
そしてその晩家に帰った私は、母に捨てられた時以上の涙を流した。