極上の他人


「ふーん。確かに背が高いとモデルとかスポーツ選手とか、未来への選択肢は広がるけど、それだけだよ、多分。私なんて身長あっても特にそれを利用してないしさ。あ、友達と待ち合わせする時にすぐ見つけてもらえるけどね」

ふふっと笑う艶ちゃんにつられて私も小さく笑った。

長身に憧れているわけではないけれど、昨日輝さんの好みの女性は長身なのかと思って、艶ちゃんが羨ましいなと思って見つめてしまっただけ。

「艶ちゃんみたいに背が高くなりたいけど、もしそうなっても多分……私のことは妹くらいにしか思ってもらえないし。必要なのは身長じゃないんだよね、きっと」

俯き、小さな声で地面に話しかける私に、あからさまなため息。

艶ちゃんは落ち込む私を引き上げるつもりはないらしい。

まあ、それが彼女なんだけど。

「ふみちゃんが落ち込む理由はよくわかんないけど、もしも私がふみちゃんくらいの身長だったら。その身長を活かしてるな。きっとその時の自分をちゃんと利用して、楽しんでる」

心なしか歩くスピードを緩めた艶ちゃんは、前を見ながらぽつりと言葉をこぼす。

声が低くて重く感じるのは気のせいだろうか。

艶ちゃんの心には言葉以上の何かがあるようにも思える。

< 163 / 460 >

この作品をシェア

pagetop