極上の他人
「ふーん。確かに背が高いとモデルとかスポーツ選手とか、未来への選択肢は広がるけど、それだけだよ、多分。私なんて身長あっても特にそれを利用してないしさ。あ、友達と待ち合わせする時にすぐ見つけてもらえるけどね」
ふふっと笑う艶ちゃんにつられて私も小さく笑った。
長身に憧れているわけではないけれど、昨日輝さんの好みの女性は長身なのかと思って、艶ちゃんが羨ましいなと思って見つめてしまっただけ。
「艶ちゃんみたいに背が高くなりたいけど、もしそうなっても多分……私のことは妹くらいにしか思ってもらえないし。必要なのは身長じゃないんだよね、きっと」
俯き、小さな声で地面に話しかける私に、あからさまなため息。
艶ちゃんは落ち込む私を引き上げるつもりはないらしい。
まあ、それが彼女なんだけど。
「ふみちゃんが落ち込む理由はよくわかんないけど、もしも私がふみちゃんくらいの身長だったら。その身長を活かしてるな。きっとその時の自分をちゃんと利用して、楽しんでる」
心なしか歩くスピードを緩めた艶ちゃんは、前を見ながらぽつりと言葉をこぼす。
声が低くて重く感じるのは気のせいだろうか。
艶ちゃんの心には言葉以上の何かがあるようにも思える。