極上の他人
「自分にないものを欲しがっても仕方ないからさ、その時に持ってるものが自分にとってのベストだと思わなきゃ。ないものねだりしても仕方ないって、小学生でも知ってるよ」
「……ないものねだり?」
「そう。手元にないものを欲しがって時間を無駄にするなってことだよ」
ふと顔を横に向ければ、ちょうど艶ちゃんの肩の辺りに私の視線が届く。
そして、そっと見上げて艶ちゃんの横顔にたどり着いた。
この視線が動く高さが、私が憧れる艶ちゃんの魅力的な長身。
そして、今更私が手に入れることができないもの。
「ないものねだりだね……」
明るい声で、肩をすくめた。
「人のものはよく見えるし、自分が持っているものは見えにくいからね。だから私が教えてあげる」
艶ちゃんは立ち止まり、静かに私の頭を撫でてくれた。
そして何度か私の髪を手に挟み、さらりと落とす。
くせのないストレートの髪が、静かに肩に落ちていく。
「このまっすぐな黒髪に憧れる女の子がどれだけいることか。サロンで高いお金を払ってまで手に入れる女の子が多いのに、ふみちゃんは何の苦労もせずにこんなに綺麗な髪を見せびらかしているって、気付いてないでしょ?」
「えっと、そんな見せびらかすほどのものでもないし」