極上の他人
なんだろうと艶ちゃんの視線をたどって振り返ると。
今私たちが歩いてきた道を走り、こちらに向かっている男性が目に入った。
「嘘……輝さん?」
遠目に見えるのは、確かに輝さんだ。
私達に向かってどんどん近づいてくる。
そして、長い足を存分に生かした輝さんはあっという間に私たちのもとへ来た。
どれだけ走って来たのかわからないけれど、荒い息づかいからは、かなり必死に追いかけてきたとわかる。
ジーンズに黒いシャツ。
普段お店で着ている定番の服装だということは、いつものようにお店から私を迎えに来てくれたんだろうか。
でも、これからはそんなことしなくてもいいと、メールで伝えたはずなのに、どうしてだろう。
「輝さん、どうしたんですか?それに、メール、届かなかったですか?」
不安げに聞く私に、輝さんは顔を歪めた。
「メールは届いたけど、そんなの納得していないし、いつも通りに迎えに行くって返事しただろ?」
「え、返事って……あ、電源……」
そう言えば輝さんにメールを送ったあと、スマホの電源を落としたままだ。
そのことに気づいて焦る私に、輝さんはあからさまなため息を吐き、肩を落とした。