極上の他人


「で?何もなかったか?」

「え?何かって?」

「会社を出てからここまで、無事だったか?」

「無事?」

気付けば私の腕を掴み、探るような声の輝さんがかなり近い距離にいた。

お互いの目の高さが合うように少し腰をかがめている。

その様子はどこか焦っているようにも感じられて、戸惑ってしまう。

「輝さん?」

私の小さな声にも更に顔を寄せた輝さん。

「会社からここまで歩いてくる間に何もなかったか?」

「何も……なかったですけど。何か、あるんですか?」

首を傾げながら、隣の艶ちゃんに同意を求めるように視線を向けた。

オフィス街のど真ん中で立ち止まっている私達に、周囲からは怪訝そうな瞳がいくつも向けられる。

おまけにその中には私の会社の人もいて、かなり恥ずかしい。

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