極上の他人


「誠吾先輩の気持ちよりも、俺の気持ちを信じてくれ。俺は自分の意志で史郁を見守っているし側にいるんだ」

「でも、お見合いで知り合って……それを進めるつもりもないくせに」

あ……。

会話の流れにのせられて、聞くつもりのなかった思いが口を突いて出てしまった。

私とのお見合いに消極的だった輝さんの態度が、その返事だとわかっているのに。

そして輝さんを責める権利は私にはない。

私が一方的に輝さんに惹かれて思いを募らせているだけなのに、輝さんが困るようなことを言ってはいけない。

私は自分の気持ちを鎮めるように、一度小さく息を吐いた。

「お、お見合いのことは、別に、いいです。わかってますから、いいんです」

「わかってないだろ?俺は、史郁のことを……」

「ねえねえお二人さん。ここは人通りも多いメインストリートなんだから、痴話げんかはどこか二人きりになれるところでやってくれる?ほら、みんな見てるし」

「え?」

呆れたような艶ちゃんの声に、はっと視線を周りに向けた。

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